IFSC 2021ワールドカップ ボルダリング第1戦(スイス・マイリンゲン) 女子決勝を観戦して

 


・日本は世界の流れから遅れはじめている印象

 

・ヤンヤはいまだ絶対的な強さ。

 

・野口選手、表彰台を逃す。野中選手は決勝進出できず。


・仏オリエン・バトン(16歳)、米ナタリア・グロスマン(19歳)らが野中選手を抑えて初の決勝進出。それぞれ2位、3位で表彰台。


・課題の傾向。ハリボテ多様だが、足置きに補助は皆無。今後、平面上でフリクションを効果的に使うムーブのセンスが問われる。

 

 

 



女子第1課題
<登れた場合>
登れたのはヤンヤだけでした。よく言われるのは保持力や背中周辺の体幹力(青丸)ですが、フリクションを得るための足使いも巧みです。パワーだけではない。

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<登れなかった場合>
完登できなかったものの、今回3位となったナタリア・グロスマンもヤンヤ同様の巧みさを見せた。このムーブはほぼ右足と左手の保持だけで行われて、左足はほとんど使われてなかった。保持力はヤンヤや野口選手程はないと思うのだが。

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野口選手は右手取りに苦戦した。右足のボリュームにジブでも付いていれば攻略できたかもしれない。しかし、今後、ボリュームやハリボテに足置きの補助が付くことは減るだろう。

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女子第2課題
<登れなかった場合>
接地面積が小さいと回転モーメントが生じやすく、フリクションが容易に失われる。

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<登れた場合>

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女子第3課題
<登れた場合>
今回、16歳、WCデビュー戦で2位となったオリエン・バトン(正しい発音はわかりません)選手。高いセンスが光ってました。ハリボテに足を置いてムーブを起こすことに躊躇は感じられませんでした。ジブが付いているわけではありません。

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このようなセンスでは、日本の若手は遅れをとっている感じ。


<登れなかった場合>
ナタリア・グロスマンも惜しいところまで行ったのですが。右手を引きに行くムーブを選択し、上を積極的に抑えに行く発想には至りませんでした。

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足置きのハリボテ引きでここまでは来たのですが。ただ、ヤンヤ、オリエンと並び、センスが光っていました。

 

 

女子第4課題
<登れた場合>
ハリボテ面に垂直に強い加重をかけることにより、強大なフリクションを得ることができているる。

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結局、ゾーンホールドを使わなくても完登できていた。


<登れなかった場合>

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野口選手は惜しい時間切れ。下部の攻略に時間がかかった。フリクションを効果的に使うムーブを短時間で見つけ出せなかったのが響いた。

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以上です。

フリクションについて、少し違った考え方

スポーツクライミング、特にボルダリングではフリクション(摩擦)に関するテクニックがどんどん重要性を増しているのではないでしょうか。

かぶった壁での手によるホールディングやヒールフックやトゥフックといったテクニックから、スラブ課題での、ハリボテやボリュームへの足置き、そしてダブルテクスチャの処理など、ボルダリング課題に求められるテクニックはどんどん変化しています。スラブ課題の得手不得手がコンペの勝敗を分けることも多くみられます。

 

そのような状況にもかかわらず、クライミング界でフリクションに関する議論は少なく、対応は進んでいないような気がします。私はフリクションのとらえ方を少し変えるべきだと思っています。フリクションの発生を凹凸による引っ掛かりと考えるのでなく、磁石が金属にくっつくような引力が発生するととらえるべきと考えています。

え、でもそんな引力感じないと思うかもしれませんが、それは、その引力が届く距離がとても短いからです。原子と原子が結合するのに近い距離です。通常の感覚では感じることはできません。さらにいうと、引力が届く距離まで近づいている面積は、見た目の接触面に比べほんのわずかだそうです。ですから、面を強く押すと、引力が作用する面積が増えてフリクションが増加します。

 

表面の凹凸による引っ掛かりでないと仮定して考えると、よくやっていたムーブやテクニックのいくつかが意味がなかったり逆効果だという結論になります。また、経験的には有効だと感じているけど、不安でできないようなテクニックを自信をもって使うことができます。

 

以下に列挙してみます。

 

<意味がない、逆効果なテクニック>

  • 強傾斜のフットホールドを踏む足に下向き(斜め下も)に力を入れる。足を下向きに突っ張る心理は、凹凸に引っ掛けるイメージに起因します。特に、ダブルテクスチャのつるつる面ではできるだけ面に垂直に力をいれなくては...。つるつる面の凸形状をあてにして、つるつる面の横方向から引っ掛けるように踏み込むのも効果は小さいです。
  • ホールドにぐりぐり足裏をこすりつける。この動作はホールドの凹凸にシューズのラバーを変形させ密着させるイメージに起因します。しかし、ダブルテクスチャのつるつる面でこすりつけても、引力がいろいろな部分で発生したり消失したりするだけです。固定して力を加えるほうが有効です。
  • 傾斜面に対して、シューズのエッジを立てる。エッジを立てる動作も引っ掛かりを求めるとっさの心理によると思います。エッジを立てると面に強い力を加えることができず、フリクションが発生しません。
  • 傾斜面の傾斜方向から踵をずらして足を置く。つま先周辺が支点となり、踵が力点になって足が回転しやすくなります。スラブ上での足クロスの時は避けられないのですが、足の力ができるだけ面に垂直にかかることを意識すると有効です。

<有効だが、不安を感じるテクニック>

  • 傾斜面を踏む足に強い力を入れる。これは、力が面に垂直にかかっていない場合などに、シューズのゴムがけずれて滑る経験から、なかなか思いきってできません。しかし、垂直であれば、力を入れるほど引力が生じ、足が吸い寄せられるというイメージをもつと、思い切ってできるのではないでしょうか。 

なかなか、うまく書くことができませんでしたが、伝わればいいと思います。もちろん、そんなこと理解しているという方も沢山いて、ボルダリングの上級者には釈迦に説法だとも思います。ただ、世界レベルのコンペを観ていても、ジムでのスラブ壁やハリボテの経験の差なのかもしれませんが、特に日本のユース選手のなかには、理解している選手とそうでない選手の差がはっきりしているように感じることがよくあります。

 

とりあえず、アップします。

これから修正する可能性大です。

 

 

 

 

 

この1年、新たに開催されだしたコンバインド競技を観戦して思うこと

 この1年、新たに開催されだしたコンバインド競技を観戦して思ったこと、スポーツクライミングがコンバインド(複合)という形式で2020年東京オリンピックの正式種目に選ばれたことの意味(マイナス面とプラス面)を考えてみた。

 

<マイナス面>

・1

 1つは、競技性に合致しない形式による専門性の希薄化、つまりパフォーマンスレベルの低下である。

 従来、スポーツクライミングでは、リード、スピード、ボルダリングは別競技として行われ、それぞれに順位が与えられてきた。これはオリンピックの陸上競技で100メートル走、マラソン砲丸投げそれぞれにメダルが与えられていることと同様だった。

 スポーツクライミングをコンバインド形式で行うことを陸上競技に例えると、100メートル走、マラソン砲丸投げをそれぞれの専門選手が競技していた形式を、一人の選手が100メートル走、マラソン砲丸投げの3種目を競技し、順位を決定する形式にするということになる。これは100メートル走の世界記録保持者ボルトにマラソン砲丸投げも競技させ、順位を決めるようなもので、例えボルトといえども、マラソン砲丸投げの競技力は、世界のトップ選手と比較するとはるかに低いレベルだろう。そんな競技を観戦することは滑稽だとさえ思える。

 オリンピックを見据え、コンバインド形式でスポーツクライミングの競技会がいくつか開催された現在、スピードのトップ選手はコンバインド形式に合致しないことが明らかになってきた。これは、リードとボルダリングの競技性とスピードの競技性との差が大きいためで、リードとボルダリングのレベルをある程度以上に両立させることは可能だが、スピード選手がリードかボルダリングのどちらかの競技力を世界レベルにするのは非常に難しいためだ。つまり、スピードの世界トップレベルの選手でも東京オリンピックの出場は困難で、東京オリンピックではスピードの世界トップレベルのパフォーマンスは見ることができない。逆に観戦者は、リードやボルダリングを専門とする選手のレベルの低い、ある意味滑稽とも見えるスピード競技を一喜一憂しながら見なければならない。

 

・2

 もう一つの問題点は競技の体力的負担の大きさによるパフォーマンスレベルの低下である。

 1人の選手が3種目を短時間で競技する体力的負担から、疲労の蓄積、けがの増加、指皮の消耗により、コンバインド決勝での各競技のパフォーマンスレベルは個別に開催されるときより低くなっている感は否めない。特に、指皮の消耗については、コンバインドが本来行われるべき競技形式でないことを明らかに示したと思っている。

 

<プラス面>

 コンバインドのプラス面は、日本にスピード競技を認知させ、競技環境と競技機会を創出させたことだろう。

 日本ではリードとボルダリングの競技環境はそれなりに整っていたが、スピードの競技環境と競技機会はほとんど無かった。オリンピックという圧力により、現在、スピード施設の建設が進んでいる。十分ではないが、今後スピード競技が行われる機会は増えるだろう。

 私は、もともと山岳という観点からスピード競技に不理解で否定的だったが、ここ1年、コンバインド競技を観戦して、スピード競技に対し、多少ではあるが理解と興味が増した。山岳競技ではなくスポーツクライミングとして意義があるし、スピードの競技を専門にとりくむアスリートが出てくることも考えられる。そのような道が開かれたことを肯定的に考えている。

 

<最後にまとめの所感>

 スポーツクライミングのコンバインドという形式は、東京オリンピックの新種目が承認されるためにスポーツクライミングを抱き合わせにしたい、しかし、出場者数は増やしたくないという方針から考え出されたと推測している。

 スピード競技が、今後、国内で発展することを期待するが、コンバインドという形式は、東京オリンピック後に消滅し、パリでは3種目が個別に順位を決定する形式としてスポーツクライミングが再度採用されることを期待している。

 どんな形式の競技も観戦すれば面白いことは面白いのだが、あえてコンバインドである必要はない。複合競技を否定する訳ではないが、陸上競技では100メートル走やマラソン観戦に熱中する人は多いが、5種競技に熱中する人は少ない。まして、専門性が高い個別競技ではなく、専門性が低下してしまう複合競技だけを行い、それにより表彰されるのは、良くも悪くもオリンピックという特別な舞台において、競技者にとっても観戦者にとっても残念なことだ。

スポーツクライミングについてあれこれ

 スポーツクライミングに関するブログを始めようと思い立ちました。

 私は、もともと山岳の岩登りをしていましたが、20年程前からトレーニング目的でジムでのボルダリングを始め、すぐにボルダリング自体がメインの趣味となりました。

 競技は、参加も観戦も興味がなかったのですが、Youtube等でワールドカップやBJC(ボルダリング・ジャパン・カップ)など内外の主要なコンペをフル観戦できることを知り、コンペの観戦にも熱中するようになりました。

 最近では、関西からBJCやワールドカップ八王子を観戦に行く程はまっています。

 クライマーとしては、ファンクラスの私ですが、スポーツクライミングについて私が感じたこと、考えたことを発信していきたいと思います。

 ご意見などいただけたら幸いです。

 

 いろいろ書きたいことが沢山あるのですが...。

 まずは、この1年間で、書きたいと思ったことを50ピックアップしてみました。

読んでる方には、ああ、あれだなと分る方もいると思います。

 気が乗れば、この中の詳細を書きますし、他のことも書いていきたいと思っています。

 

・BJC

・ワールドカッブ ボルダリング

  • 勝つことが難しくなった楢崎智亜。ランジ系課題は減少した半面、距離はやや遠い傾向。ボリュームとカチの構成。スラブは必然、極端なルーフはなくなった?
  • 楢崎智亜、中国2大会、ミュンヘンでの準決落ち。
  • 八王子男子の熱戦。モローニの優勝
  • 名勝負、男子第四課題の楢崎智亜の奇跡
  • 野口啓代の3連勝と最多勝利の可能性。 
  • ロシア、エカテリーナ・キプリアノワの八王子表彰台。元スピード選手?
  • 渡部圭太、緒方佳行の不振、杉本玲の復調。藤井快しっかりしてくれ。
  • 野中生萌、念願の年間王者。
  • ショウナ・コクシー、ヤンヤ・ガンブレットの欠場について。
  • ワールドカップ複数の中国開催について。
  • 藤井快の貴重な1勝。爆発力はピカイチ。完登数が少ない、課題の強度が高い大会で強い印象。

・ワールドカップ リード

  • これからのリード競技も屋内が好ましい。屋外、郊外にクライミングウォールを建設するのは時代錯誤。
  • ジェシカ・ピルツの台頭。ジェシカと比べてヤンヤにないもの、リーチ。そういえば過去のアディダス・ロックスターのスーパーファイナルでヤンヤと死闘を繰り広げていたなあ。
  • 日本の若手の伸びに期待。田中修太、西田秀聖、平野夏海、楢崎明智

・コンバインド

  • 夏の決戦、コンバインド・ジャパンカップ
  • アジア大会。そうか韓国勢がいた。
  • 世界選手権でのコンバインド。サ・ソルの頑張り、日本勢精彩欠く。
  • コンバインドでのスピードとは。スピードのトップ選手を意識する必要はない。
  • スピード選手はコンバインドに出場できない不公平。陸上でいうと、100m、400m、砲丸投げボルダリング、リード、スピード)みたいなもの。ボルトに砲丸投げできないと金メダルあげないよ。
  • コンバインドは甲子園での投手連投のようなもの。指皮が物理的にもたない。
  • JOCの競技決定に思う。選ばれたのは嬉しいが、他の競技も含め何かの競技のだしにされた感はある。
  • パリオピンピックでは各競技別になることを期待。

・世界選手権

  • 口惜しさをばねに原田海。世界ユースボルダリング決勝後の失意と世界選手権。
  • オーストリアの強さについて。2017年の八王子でのヤコブシューベルト
  • 来年の世界選手権は八王子で開催、ワールドカップ日本は八王子でなく別の場所(多分オリンピック会場)。セッターが集った寿司屋からの情報。

ワールドユースについて。

  • 取りこぼしもあったが、2017年程ではないにしろ、やはり日本のユースは強かった。
  • 谷井菜月、楢崎明智の二冠。
  • 残念、森秋彩の欠場。そして白石阿島も。
  • 西田秀聖にもっと脚光を。
  • 工藤花のバラの涙(チャーリー言)
  • 残念、田中修太のミス。
  • 伊藤ふたばのもどかしさ。
  • がんばれ菊地咲希。最適なムーブの読みとフィニッシュの強化要。
  • 滋賀県から2選手が出場、前田選手リード銅メダル。
  • フランス、ナイル・メイニャンの頑張り。悔しい思いをバネに?
  • 若い世代で、中国の台頭。

・その他

  • JALIFSCスポンサードについて。auも。
  • 個人的にはボルダリング検定について。
  • 原田海同様、口惜しさをバネにした?平野夏海。
  • 浅草クライミングを買った。
  • 近所で閉店したジムについて。
  • 滋賀にオープンしたロックメイト。これからのジムはこんな感じ?
  • 国内大会の動画を英語でウェブアップする必要性。
  • ダブルテクスチャー、スラブ課題全盛。現象論ではなく原理的なフリクションの理解が必要。
  • もっといろいろな国内大会観戦に行きたかった。残念。